土曜の夜、
家電量販店に行ってバリカンを買った
いますぐやってしまいたかったから充電式じゃなくて乾電池式のを探した
若い男の店員さんは「カミソリをお探しでしょうか」と言いながら近寄ってきたけれど、
はっきりと、
「バリカンです」と言ったらわたしの語気が強かったらしいのか、そのひとはいっしゅんおびえて「すみません」と言った。
「いますぐここのトイレで剃りたいんで乾電池式のやつはないですか」
ほとんどが充電式だったけれど、ふたつだけ乾電池式のやつがあって、
在庫のある安い方を買った。電池と合わせて買っても1600円。
一緒に探してくれたその男の店員さんがそのまま会計もしてくれて、胸元を見ると研修中のバッチだった。
大変だよね。
変なお客が来て、慣れない敬語使わなきゃならなくて。
夜の八時とかだったと思う。
何のためか知らないけれど女子トイレの入り口のドアはストッパーで固定されて閉まらない。
外から丸見えなんだが閑散としてもう誰もここにはいないし
バリカンの包装をやぶいて電池を入れ、6mmだか9mmにセットして真ん中から行く。
やり方とか分からない。
説明書とか読むの嫌いなんだ。衝動的なもので。
あれ、剃れてるかな、と思ったけれど
まっくろな髪の毛が一気に流しに落ちてきた。
それからはあらゆる方向からでたらめに刃をあて、
坊主頭のわたしが完成した。
用具入れから箒を取り出し、塵取りで集めてごみ箱に捨てた。
まっくろな塊。
掃除の人、あしたの朝、びっくりするかな。
コメダ珈琲店でお父さんが待っていた。
「ちょっとぶらぶらしてるから待ってて」と言っていた。
テーブルで本を読んでいたお父さんは顔を上げて驚いて、
「まりな、いつの間にカットしたの」と言った。
家でやったら止められるだろうと思ったから外で剃るしかなかった。
わたしの頭。
あまりにも適当にやったからぴょこんと飛び出た長い毛もあるし後ろなんて頭皮が見えてるところと黒いところがまだらにあって触っても凹凸。
パンクな頭……
ちょっと悲しくなる。
まぁでも
派手な口紅を塗りゴールドの輪っかのイヤリングをつければ正面からはけっこうかっこよく見える。
頭を使うんや、
頭を。
この坊主だからこそ似合うスタイル探していくんや。
ウイッグ屋さんはお盆は休みみたいだし、
このまだらな、痛々しさがうつくしい頭に似合う、とびきりのおしゃれをして早くみんなを驚かせよう。ゆさぶらせよう。
そして
これを、
底まで傷つききった証明として次へ進む。