「星野君のヒント」田村隆一
「なぜ小鳥はなくか」
プレス・クラブのバーで
星野君がぼくにあるアメリカ人の詩を紹介した
「なぜ人間は歩くのか これが次の行だ」
われわれはビールを飲み
チーズバーガーをたべた
コーナーのテーブルでは
初老のイギリス人がパイプに火をつけ
夫人は神と悪魔の小説に夢中になっていた
九月も二十日すぎると
この信仰のない時代の夜もすっかり秋のものだ
ほそいアスファルトの路をわれわれは黙って歩き
東京駅で別れた
「なぜ小鳥はなくか」
ふかい闇のなかでぼくは夢からさめた
非常に高いところから落ちてくるものに
感動したのだ
そしてまた夢のなかへ「次の行へ」
ぼくは入っていった