一か月くらい前かな、つまり10月のことだ。夜、駅で、10月だというのに、毛皮の女が歩いていて、その女はごく自然に、隣を歩いている男と、手をつないだ。お互いがどうじにふっと手を伸ばし合って繋いだ、という感じだった。
どんな顔か見てやろうと、追い抜いて、ふりかえってみると、その女の腹は膨らんでいて、つまり孕んでいた。幸福な夫婦。そのとたん、わたしは、生涯そのようなこととは無縁だろうなと悟った。男の人にかぎらず、どんな人間とも親密になることはできない。そのようにわかってしまった。
きょう、装丁のうつくしい詩集を買った。パソコンはまだ愚かだ。「そうていのうつくしいししゅう」を変換して、「想定のうつくしい刺繍」となってしまうとは。
谷川俊太郎の「あたしとあなた」という詩集。
この詩集を買ったことを機に、あの日の悟りは帳消しとしよう。
この詩集を今後、わたしがだれかと親密に結びつく、そのシンボルとする。
夜、駅でばったり友達に会う。いっしょに電車に乗って帰る。ヨカッタ。